kitombo.com | チェンマイ俳句歳時記 | 2004年2月23日 
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チェンマイ俳句歳時記
「唐辛子「プリック」」

坂本 茉莉
2月23日

 どうしてこんなに辛いものが好きなのか。特に乾季から季節が移ろい、暑季初めの2月下旬から3月になると、辛いものを食べて暑さに対処できる体にしなければと思うのです。もちろん、4月〜5月にかけての猛烈な暑さには、唐辛子なしでは体が持ちません。元々辛いものが好きでしたが、タイに来てから生の唐辛子をかじる刺激を覚え、ますます辛みの虜になってしまいました。
 市場に出かけると、緑・黄・赤・オレンジと目にも鮮やかな唐辛子売り場に自然と足が向きます。色、大きさ、種類も様々な唐辛子。山盛りに売られている唐辛子を見ているだけで元気が出てくるようです。
 唐辛子のタイ語名は総称して「プリック」といいます。この「プリック」のなかには、コショウ(プリック・タイ)やピーマン(プリック・ユワック)も含まれます。日本のタカノツメにあたる唐辛子は「プリック・チーファー」(天向きトウガラシ)と呼ばれ、文字通り実は上を向いてついています。日本でも、天井守り・天竺守りと呼ばれているそうです。この唐辛子は、生で炒め物に入れたり、乾燥させて砕いて調味料に使ったりしますが、辛さの点ではマイルド系に分類されるでしょう。
 一番辛くて美味しいのは「プリック・キーヌー」(鼠の糞トウガラシ)と呼ばれる、指爪ほどの小粒の唐辛子。この種の唐辛子は、大抵家庭の庭先に植えてあり、調理のたびにちょっと摘んできて使います。鼠の糞という名前もおもしろいですね。この鼠の糞トウガラシが田んぼの畦などで野生化した種類を、特に「プリック・キーノック」(鳥糞トウガラシ)と呼びます。とにかく強烈な辛さだそうですが、私は鳥の糞の方をまだ試したことがありません。

      指先に熱たうがらし刻みつつ     茉莉

 鼠の糞トウガラシは口に入れても強烈ですが、調理する側にとっても大変です。ナムプラー(魚醤油)に細かい輪切りの唐辛子を入れて、卓上調味料を作る手伝いをしていたときのことです。鼠の糞トウガラシを包丁で刻んでいるうちに、指先がひりひりして耐えがたい痛みを感じてきました。我慢して刻み続けていると、熱をもっているように指が熱くなってきます。あわてて水で冷やし、作業終了後石鹸で何度も手を洗いましたが、その痛みと熱はしばらく収まりませんでした。この手で触ったところの皮膚も、同じようにひりひりするのです。そのときの句が上述のものですが、日本の人たちにはこの感覚をなかなか理解してもらえませんでした。
 クロックという小型の石臼で、唐辛子を細かくつぶしているときも気をつけなければなりません。中の種や唐辛子の小片が飛び出してきて、目に入ったら大騒ぎになります。北部タイ料理では、この石臼で唐辛子やニンニク、紫玉葱、乾魚をつぶして、スープやカレー、和え物の調味料にします。特に唐辛子みそを作るときには、唐辛子やニンニクを一度火であぶってつぶすので、とても香ばしく食欲をそそられます。その他、日本のご飯のふりかけにあたるものを、乾唐辛子・乾えびなどを入れて作ります。唐辛子好きのタイの人はそれだけでは物足りないのでしょう。食後の果物、例えばパイナップル・青マンゴー・グアバを食べるときにも唐辛子がついてきます。屋台の果物屋でビニール袋入りの切り分けた果物を買うと、唐辛子・砂糖・塩を混ぜた調味料をたくさん振りかけてくれます。

      枯れきって真の紅湧く唐辛子     加藤知世子

 俳句の世界では、唐辛子は秋の季語です。農家の軒先などに、赤い簾のごとく唐辛子を吊るして乾している情景が目に浮かびます。一方、夏の季語として使われるのは、青唐辛子や葉唐辛子です。「煮る前の青たうがらし手に久し 日野草城」という句がありますが、香り高く新鮮で、いかにも夏の季語らしいすがすがしさに溢れています。

 辞書をひいていると、タイのことわざで唐辛子「プリック」を使ったおもしろいものがありました。タイ語を直訳すると、「ピーマン(プリック・ユワック)は大きいが、鼠の糞トウガラシ(プリック・キーヌー)は小さい」という意味で、そのココロは…?“図体の大きいやつはえてして弱虫だが、小さいやつの方が負けん気が強く威勢がよい。”ということでしょうか。日本でも「山椒は小粒でもぴりりと辛い」と言いますよね。

      唐辛子動きづくめの父小さし     桜井博道

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