kitombo.com | チェンマイ俳句歳時記 | 2004年4月5日 
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チェンマイ俳句歳時記
「闘鶏(ガイ・チョン)」

坂本 茉莉
4月5日

 タイでは闘鶏が盛んに行なわれます。チェンマイ市内や郊外でも、週末になると、男たちが手塩にかけて育てた軍鶏を抱えて、いそいそと闘鶏に出かけていきます。常設の闘鶏場は、賭け事好きなタイの人たちで異様な熱気に包まれますし、それ以外にも村の一角に週末だけ、あるいは縁日のときだけ作られる仮仕合もあります。いずれにしても、男ばかりで、仕合が始まるとその熱気とかけ声に圧倒させられます。

闘鶏の抱かれて蹴爪たたみけり   宮岡計次

 闘鶏というと、軍鶏の長い蹴爪を利用したり、国によっては蹴爪に刃物をつけたりして、闘わせることが多いのですが、タイの闘鶏では、軍鶏の蹴爪を短く削って、お互いに致命傷を与えないようにするのが昔からのやり方でした。それでは、どのように勝負をつけるかというと、どちらか一方が消耗して戦意をくじかれ、敵に背中を見せて負けの鳴き声を発したとき、あるいは、闘鶏の持ち主がもうこれ以上無理だと判断して、自分の軍鶏を引き離したときだそうです。ということは、瞬発力もさることながら、タイの闘鶏では持久力も大切な要素となっています。そのための特別な訓練があって、冷たい水で軍鶏の体を拭いたあと、陽ざらしの籠に閉じ込めておくのがその方法です。直射日光に晒されて、非常に喉が渇くのですが、決して水を与えないという修行のような訓練。この訓練によって喉がからからになった軍鶏の喉には、痰がたくさん絡まるので、痰を鶏毛できれいに取ってやるのが、飼主の大事な役目でもあります。そのほか、レモングラス、タマリンドの葉、しょうがの葉で煮出したハーブ湯に入れたり、それで体をマッサージしたりするのを見たことがあります。そんなとき、飼主は慈しみのこもった眼差しで軍鶏を見つめ、自分の妻子よりも大切に扱っているようでした。
 さて、皆さんの中には、なぜ「闘鶏」(タイ語で「ガイ・チョン」)が季語なのかと思っていらっしゃる方もいるでしょう。俳句歳時記では、闘鶏、鶏合せは春の季語です。昔、唐の玄宗帝が闘鶏を好み、24節季の一つである清明節に仕合を催したという故事に基づき、日本でも陰暦3月3日の節句に宮中で行なったのが始まりです。鹿児島では、江戸時代に薩摩鶏を闘わせる遊戯がありましたが、現在は薩摩鶏の品評会の際、体力検査の一環として行なう程度だそうです。沖縄では、軍鶏を使った闘鶏がいまでも行なわれるようで、これはタイ、南島方面の影響を受けている可能性があります。
 もともとシャモ(軍鶏)という言葉は、シャムロ(暹羅)から派生した語で、シャムの国から江戸時代に輸入され、日本で改良された鶏のことでした。現在、日本では食肉用と愛玩用に飼育されていますが、タイでは蹴爪が発達して闘争を好む本来の性質を利用し、ほとんどが闘鶏用の軍鶏として飼われています。

       負け鶏の脚括られて売られけり   成島魚狗
       勝鶏の抱く手にあまる力かな     太祗

 掲句の対照的な表現は、勝負の世界の厳しい現実を表しています。実際には、1回負けただけで食用に売られる鶏ばかりではありませんが、負け癖のついた鶏は飼主からも見放されることが多いのです。といっても、手塩にかけて育てた鶏なので、自分で殺して食べる飼主はほとんどいないでしょう。
 タイの闘鶏でおもしろいのは、まぶたの上とその上部の皮膚を糸で縫い合わせ、軍鶏の目を絶えず見開かせる風習があることです。一説には、軍鶏が常に周囲を見回せるようにするためといいます。

 今年初めに騒がれたタイの鳥インフルエンザ、軍鶏にとっても大変な事件でした。感染地域に指定されたところでは、闘鶏愛好家が飼っている軍鶏にも処分命令が下りました。我が子を殺めるのと同じだと男泣きした人、一羽あたりの処分補償金が3,40バーツ(約90〜110円)であるのに抗議して、俺の育てた軍鶏は1万バーツを下らないと座り込みをした人など様々でした。軍鶏用の鳥かごに「人間の命と引き換えに殺されます。」という札をつけて抗議した人もいて、各地の闘鶏家が全国ニュースで紹介されました。
強い軍鶏の交配を長年の間繰り返し、かつ独自の育成方法を生み出したタイの闘鶏は、一つの文化だと言えます。金銭面の損失だけでなく、昔から受け継がれてきた闘鶏の文化が、鳥インフルエンザの影響で廃れていくのではないか、一時はそんな危機感も感じました。タイ政府は、今後闘鶏用の軍鶏飼育を登録制にして、すべて番号チップを埋め込むという案を検討中です。

       末黒野の深き穴なり軍鶏葬る     茉莉

(末黒野=すぐろの:春の季語。早春、害虫駆除と萌え出る草の生長のために枯れ草を焼き払うが、その野火で焼けた野を焼野といい、半焼けで残っている茨やススキなどが生えている野を、特に末黒野という。)

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