kitombo.com | チェンマイ俳句歳時記 | 2003年12月15日 
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チェンマイ俳句歳時記
「紙漉き」

坂本 茉莉
12月15日

 チェンマイ市内から東南方向へ8キロほど行ったところに、ボーサーンという町があります。そこで毎年1月に開かれる傘まつりでは、町の地場産業である手漉き紙で作った唐傘や紙灯ろうが街中に飾られ、また北タイ美人が伝統衣装を着て、唐傘片手に自転車に乗りパレードをします。4,50年前には、付近の村の娘が片手で唐傘をさし、自転車に乗って仕事に出かけていく様子が見られたそうです。自転車パレードの由来はそこからきているのでしょう。
 また、チェンマイの昔の写真を見ると、川沿いの中央市場付近では大きな唐傘を日よけにして、その下に茣蓙を敷いて商品を並べていました。伝統衣装の女性たちも、外出時には強い陽射しを避けるためこの唐傘を愛用していたようです。
 唐傘に使っている手漉きの紙は、クワ科のカジノキ(タイ語でトン・サー)の樹皮から作られ、以前は僧侶への献上品や日用品として使用されていました。加工工程は、まず樹皮を水につけ柔らかくしてから、釜で煮込んで可溶性にし、その後さらに水にさらして漂白します。その原料を木槌でたたいて繊維をほぐし(写真1)、最後に水の中で貼り板(木桁)の上に繊維を広げ、静かに揺すって均一にならします。この工程のときに、花びらや木の葉を入れて漉きこむこともあり、最近はラッピングペーパーやノートの表紙にも使われています。写真2の花びら入り紙漉きの様子は、ラオスのルアンパバーンで撮影しました。チェンマイの紙漉きの技術を習得して、ルアンパバーン郊外の村で工房をはじめたとのことです。
 現在では、タイ各地でいろいろな素材を使って紙漉きが行なわれ、バナナの繊維で作った紙、梅のような白い花をつけるタコブの木の樹皮紙などを見かけます。

        いくたびも水に皺よせ紙を漉く     野崎ゆり香

 俳句の歳時記で紙漉きは冬の季語。「紙を干す」「紙漉女」等も季語に含まれます。日本では楮、三椏、雁皮が紙の原料に使われ、特に楮は繊維が長くきわめて強靭な紙ができるそうです。純白の紙を漉くために、清流に一、二昼夜漬けて漂白する「川晒し」の作業を行なうところもあります。寒い季節に行なう紙漉きの作業は、厳しい日本の風土と共に育まれた伝統工芸とも言えるでしょう。

        干紙に雪の白さの乗り移れ       津田清子
        紙漉くや雪の無言の伝はりて      細見綾子

 数年前に訪れたラオス北西部のムアンシンで、ヤオ族の村に遊びに行きました。独特の真っ赤な房飾りの衣装が日向に干され、その先にたくさんの木枠が並べられていました。よく見るとそれは漉いた紙を干しているところで、北タイで見るよりかなり茶色がかった紙の色です。つたないラオ語でたずねると、その原料は竹だという返事が返ってきました。紙漉きには若い竹の繊維が向いているので、若竹が取れる11月から翌年の2月ぐらいが紙漉きの季節です。切り出した竹を割いて石灰と水に数週間漬けて柔らかくし、木槌でたたいた繊維を紙漉きに使います。漉き枠は畳大のもので、そこに黒い布が張ってありました。黒い布の上に竹の繊維で作った液を柄杓ですくって流していくと、色のコントラストで紙の薄さがわかるようになっています(写真3)。それでも、紙の厚みを均一にならすのは難しそうでした。木枠ごと直射日光に当てて半日ほど乾かすと、かすかに竹の香りのする紙ができるそうです。
 ヤオ族は南中国から移住してきた民族で、宗教行事には漢字を使用し、道教の教えにのっとって儀式を行ないます。その儀式用に竹の手漉き紙を使い、また経典も手漉き紙に墨筆で書いていきます。現在は、現金収入を得るために手漉き紙を作り、観光客に売っている村も増えているようですが。

        子を叱る声よくとおる紙漉き女     茉莉

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