kitombo.com | デウィとの五〇〇日 | 2004年7月26日 
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デウィとの五〇〇日
「『デウィとの五〇〇日』(14)」

大地舜
7月26日

求む・女子大生
 サリーさんティアナさんが、どういう事情でこの家に下宿しているのか、それが前から不思議でしょうがなかった。
 だがその疑問も、午後の雑談を聞いていてようやく解かれた。
 サリーさんたちは、奥様がスラバヤ・ポスト紙に出した、新聞求人広告を見て、それに応募したのだった。
「本当言うとね。ヨシエ、ここに下宿するまで大変だったんだから・・・。周りの人はみんな大反対したのよ」
「なんで・・・?」
「何しろ日本人というと、短気ですぐ人を殴るとか、“コラッ”と怒鳴るとか、そういうイメージしかないのよね。うちのコンコン(父親)にとっては、日本人イコール軍人なの。昔“キオツケ!”“バカヤロー!”なんて怒鳴られたんですって。だからすごく心配してねー。最初は下宿なんて物好きな事はするな、て言ってたのよ」
「ホントー。なんだ、日本人ってもっと評判がいいかと思ってた」
「まあ、特別憎まれてはいないけど・・・でも決して好かれてはいないわね」
「どうして・・・?」
「やっぱり戦争の時の軍隊のイメージが残っているのね。それに最近はエコノミック・アニマルでしょ。異様な人々、といった感じよ。ヨシエやジローがごく普通の人間なのでびっくりしたわ」
「ふーん」
「ところでヨシエ、まさかジローはスパイじゃないでしょうね?」
「え、何のこと?」
「ウン、コンコンの話では昔スラバヤに来た日本人の多くがスパイだったんですって」
「でも、ジローでは無理ね」
「そうね、さっぱり言葉は上達しないし、あれじゃー。スパイ失格ね」
「そうよ」
「ヨシエ、新聞広告には日本人の若い夫婦とあったでしょ。あれもわたしたち信用してなかったの。どうせ五〇歳過ぎのおじさんだろう、と思ってたし、あるいはいやらしい中年男で、女子大生をお妾さんにしようとしているんじゃないか、と思っていたのよ。家族も友達も、みんなそうに違いない、と言ってたし・・・」
「それはないわねー」
「でも、日本人はその方面では有名なのよ。うちの近所にも二号さんが住んでいるもの。秘書をしていた中国系の女性だけど、ボスの日本人とでき上がってしまって、そのボスが帰国するというんで大騒ぎしたのよ。結局、土地つきの家を買ってもらって、それで和解したらしいけど」
「本当の話?」
「もちろんよ。だから中国系の家では娘を日系の会社には勤めさせない事が多いのよ。欧米人と違って日本人は、単身で働きに来る人が多いんでしょ?そして本国に奥さんが居ても、すぐ現地妻を探すんですってね。だから新聞広告もすぐには信用しなかったの」
「いやーねー、そんな風に思われるなんて。こっちは真面目にインドネシア語の先生を探していたのに」
「それでジローとヨシエの身元調査をしたの」
「エッ、どうやって?」
「簡単よ、リニーがすぐそこに住んでいるでしょ。だからリニーに頼んで近所の評判を聞いて、ジローの勤務先を調べ、そこに電話してみたの」
「本当にー!よくやるわねー」
「評判は悪くなかったわよ」
「ありがとう。でもね、こちらにも面白い話があるの。“アイルランガ大学の女子学生求む”とはっきり広告に書いてあったでしょ。ところが来た手紙二四通の半分が男性からなの。ビックリしたわ。そしてアイルランガの女子学生からは四通だけ。その中でサリーとティアナだけが学生証のコピーを添付してきたの。気が利いてるじゃない。それで二人にすぐ来てもらったの」
「それはいいけどヨシエ、わたしたち三食メイド付きで、無料で泊まっているでしょ。これで本当にいいの?ティアナも心配しているの。インドネシア語教えてるといったって週二回だけだし・・・」
「いいのよもちろん。居てくれて大助かりなの、本当に。インドネシア語は上達したし、メイドの使い方もおそわったし、話相手はできたし、風俗習慣も解説してもらっているし、お陰で、大分、アット・ホームな気分になってきたわ。二人とも遠慮しないで、ずーと居てね!」
「それなら安心したわ。でもジローはどう?」
「ジローも同じよ。わたしのよいボディガードができたって、喜んでいるわ。それに日曜日には大手を振ってテニスに行けるでしょ。わたしを放っておいても、サリーたちが相手をしてくれるから、心おきなくプレーできるんですって」
「本当!じゃあー、夜の特訓、もっとビシビシやろうか。ジローが怠けないように絞らなきゃ」

「ところでサリー、明日連れてくるのはどんな人たち?」
「法学部の女の子二人と、高校生の子よ。高校行っている子は来年アイルランガに入学するんですって。それで、わたしたちの後に下宿したい希望があるようよ」
「それは分からないわね。来年の話は早いし、サリーたちにはずーと居て欲しいし・・・」
「それにしても、連日、友達連れてきてるけど、いいの。まだまだ遊びに来たい、と言っている子が大分いるの」
「もちろん大歓迎よ。お茶とお菓子を用意しとくから、いつでも連れてきていいわよ」

「そういえばヨシエ、女子学生を下宿させるというのは誰のアイディアなの?急に思いついたの?」
「ううん、日本に居る時から決めていたのよ。偶然、二人とも同じことを考えていたのね。この家だってアイルランガ大学に近いでしょ。だから借りたのよ」
「ふーん、変わってるわね。もう一つ知りたいんだけど、インタビューの時、わたしたちでいいって、どうやって決めたの?何か合格の基準でもあったの?」
「何もないわよ。ただの直感よ。でもあの時サリーったら、ジローに“どうすんの?わたしたちでいいの?”と、返答を迫ってたじゃない。会って五分ぐらいで恐ろしい顔して迫られて、ジローも“イエス”としか言えなかったんじゃない?」
「アハハ、そうかー。あの時ジローったら無言で何を考えているか判らなかったから、ちょっと揺さぶってみたのよ」
「でもあとでジローが言っていたわよ、“二人とも良い人のようだけど、学生証の写真はまたえらく美人に写ってたなー”だって」
「アハハ、ジローは実物を見てがっかりしたのね。あの写真の頃はまだ痩せてたからね」
サリーさんはいかにも勉強家らしく眼鏡をかけている。だけど素顔は美人だ。丸っこい眼鏡をはずすと、すごく上品な美しい顔をしている。

(つづく)

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