大学四人娘(2)
こんなに苦労してカンニングして、一四人が同じ答案を出しても、ある人は試験に合格し、ある人は落ちた。とサリーさんは言う。
「ねー、おかしいのよヨシエ。同じ答案を出したのに、わたしとティアナは通っていて、リニーとリアは落ちているの。どうなっているのかしら?」
「日本でも事情は同じよ。多分、教授はろくに答案読んでないのよ。ただきれいに書いてあれば良い・・・とかね」
「うん・・・多分リニーは純粋の中国系でしょう。だから意地悪をされているのよ・・・。でもリアは通るはずなんだけど・・・」
「中国系だと意地悪されるの?」
「そりゃーそうよ、ヨシエ。わたしの弟だって、小学校、中学校と進学するのに先生方にお金を積まなきゃならないのよ」
「本当!」
「高校に入るのはもっと大変よ。どんなに成績が良くたって相当にお金を使わないと入学できないの」
「公立高校でしょ?」
「そうよ。もっと大変なのはわたしの行っているような国立大学なの。なにしろ政府が、中国系は数パーセントしか入学させない、と決めているでしょ。だから競争が激烈なの」
「あら! じゃー、あなたたちはすごく優秀なのね!」
「いやーねー、今ごろ気がついたの? 大金を積んで入学させてもらっている中国系もいるらしいけど。うちは貧乏でしょう。だから入れたのが不思議なくらい」
「そうねー」
「それに進級するのも大変なのよ。この間リニーが教授に呼ばれて雑談してたら、教授が『実は家の塀が壊れてねー』と言うんですって。つまりそれはね、リニーにお金を出させようとしているわけ。塀を直すか、お金を出さないと、いくら立派な答案を出しても合格点をくれないのよ。だからリニーの家は大変よ。毎年お金を使わないと進級できなくて・・・」
「サリーやティアナはどうなの? お金は使わないの?」
「うちは貧乏だもの・・・。ティアナのうちも裕福とは言えないし・・・。その辺の調べはついているのよ」
「ひどいのねー」
わたしはただのメイド。だからこんな話は初めてで興味深かった。わたしの家族で高校まで行ったのは、お兄さんただ一人だ。あとはみんな小学校も途中までしか行ってない。だから大学の話は雲の上のことでピンとこない。だけど中国系の人も、いろいろと差別に苦しんでいることが分かった。
なんでこんなにジャワ系と中国系はいがみ合うのだろう? わたしは『同じ人間だ』と思うんだけど・・。
サリーさんによると、女子大生の中には大学教授の『いいなり』になって、それで合格させてもらう子もいるという。『いいなり』というのは、もちろん男女関係のことだろう。
こんな話は、わたしには信じられない。だって、いったい何のために大学に行くのかしら・・・と思う。
わたしは今まで、大学教授というと神様と同じような人だと思っていた。大学生だって偉い人々と信じていた。だけどサリーさんの話を聞くと、大学教授なんて、人間の仮面をかぶったサルのように思えてくる。そして、わたしの大学に対するイメージは、壊される一方だ。
ある日、リニーさんは友達と二人で中部ジャワに発った。サリーさんによると、リニーさんは二度、三度と再試験を受けたのに合格できないで、だれかに黒魔術をかけられたと疑っている。そこで中部ジャワに住む高名なドクン(祈とう師)に会って、呪いを解いてもらうのだという。
「それならいっその事、教授に呪いをかければいいじゃないか。合格させないと殺すぞ! と、おどかしゃいいのに・・・」
とは、ご主人様の言葉である。
ご主人様は冗談でそう言ったようだけど、わたしは冗談でなく本当にそうしたらいいと思う。きっとリニーさんは似たようなお願いをしてくるに違いない。教授もウワサを聞いて、慌ててリニーさんを合格させることだろう。
『リリーン、リリーン』
朝の五時だというのに電話が鳴った。
「ハロー、ヨシエ居る? ティアナだけど」
「ハイ、少々お待ち下さい」
奥様はまだ寝室に居たが、電話の音で起きた様子だった。
「ティアナ、どうしたの、こんなに早く?」
「ごめん。ごめん。緊急の用事があって・・・あの・・・もしかするとわたしあてに電話がかかってくるかもしれないから・・・悪いけど内容聞いといて。今。人探してるの。じゃーね」
「変な電話ね。デウィ」
「そうですね。今、試験中で忙しいのに人捜しとはおかしいですね」
六時半になったら、ティアナさんが友達二人を連れて、ひょっこり姿を現した。
「どうしたの、ティアナ? 七時には試験が始まるんでしょう?」
「えー。でもねー、今、人探ししてるのよ。その人が教授から試験の問題用紙を買ったんですって。だから昨夜から必死で探しているの」
「なんだ、そういう人捜しなのね・・・。それで見つかりそうなの?」
「名前は判ったけど、まだ連絡がつかないの。電話が来たら、どこかで会えるか聞いといて」
「えーいいわ」
ティアナさんとその友達はあたふたと出ていった。
サリーさんもやって来た。
「ヨシエ、電話あった?」
「ないわよ」
「そうでしょうね・・・。せっかく買った問題用紙、そう簡単に見せてくれる訳ないし・・・」
「そんな人捜しする時間があったら勉強すればいいのに・・・」
「勉強しろったって大変なのよ、ヨシエ。なんせ試験の範囲はこの厚い本五冊だし、英語で書かれているのよ。判らない所も多いの・・・。だからジローに解釈の仕方、教えてもらおうと思って来たんだけど、でも、今ごろ家に居る訳ないね」
「今晩でいいんでしょう? どうせ再試験があるんでしょ?」
その本は、国と国との間に関する法律について述べているという。わたしはサリーさんを見直した。やっぱり大学生はすごい。外国語の本を読んで勉強しているんだもの。
やっぱりわたしは、大学生のこと尊敬することにしよう・・。
(つづく)