kitombo.com | デウィとの五〇〇日 | 2004年11月15日 
kitombo.com

デウィとの五〇〇日
「『デウィとの五〇〇日』(30)ピストル強盗」

大地舜
11月15日

 サリーさんの家にピストル強盗が入った。真っ昼間の事である。中年の大男がノッソリ店先に現れ、家の中まで入ってきて、サリーさんのお父さん(コンコン)にピストルを突きつけた。
「百万ルピア出しな」
 というのだ。
 小さなコンコンはひっくり返るほど驚いて、
「ちょっと待ってくれ、そんな大金置いてないけど、ワイフに聞いてくる」
 と言った。
 奥に入ったコンコンは、サリーさんのお母さんに
「オイ、どうしよう、百万ルピアあるか? ピストル強盗だ」
 と言った。コンコンのヒザはガタガタふるえていた。
「百万ルピア? 高すぎるわよ! 五万ルピアにまけさせなさい」
「エーッ! 五万ルピア? オイオイ、それしかお金ないのか・・・?」
「もちろん無いわよ! 強盗にやるお金なんかあるわけないじゃない。いいからすぐ戻って値切って頂戴!」
 コンコンは恐る恐る、強盗の待っている居間に戻った。
「あーあー、あのー、五万ルピアしかないんだけど・・・いいかいそれで・・・?」
「少ねーなー、百万ルピアと言ったろう・・・。まあいいや、十万ルピアにしようか。あと五万ルピアぐらいなら、なんとかなるだろう?」
「わかった、わかった。なんとか探してみるよ」
 コンコンはまたお母さんの所に戻った。
「あと五万ルピアでオーケーだ。あるだろう?」
「まあ、あなたったら! 七万五千ルピアにまけさせなさいよ!」
「エーッ? もういいよ。相手は本当のピストルを持ってるんだぞ! 僕はもう居間に戻るの嫌だよ。それをお前、まだ値切るなんて・・・」
「いいわよ、じゃ。わたしが行くわよ」
「イヤイヤ、やめとけ、危険なことは、俺にまかしとけ」
 コンコンは七万五千ルピアを持って、足が地に着かず、ヨロヨロしながら居間に戻って行った。
「こ、こ、これしか無かったよ」
「そうか、あ、ありがとう」
 大男はノッソリと出て行った。

 スラバヤでは、泥棒、強盗事件は少しも珍しくない。でも、真昼の強盗というのは珍しい。それに、値切りに応ずる強盗というのも、あまりいない。
 ピストルはたぶん、警官に五千ルピア払って借りて来たものだろう。それにしても大人しい強盗で良かった。
 ふつう、強盗に入られたら、まず逆らう事はできない。強盗は山刃を武器にして金持ちの家に押し入る。そして家族全員を縛り上げ、一室に押し込め、ゆうゆうと金品を持ち出す。
 先日ジャカルタで、アメリカ人の家に強盗が入った。そこの家のご主人は、三人の強盗を相手に戦い、とうとう殺されてしまったそうだ。
 わたしの国の強盗は、逆らう者がいると、まず手首から切り落とす。それでも逆らうと、片腕を切り落とす。そこまでされたら、誰だって逆らうどころじゃなくなる。だがこのアメリカ人は片腕を切り落とされて逆上し、なおさら暴れ回ったらしい。
 スラバヤでも最近、やはり強盗に逆らおうとして、腕を切り落とされた娘がいる。幸いなことに、娘は気絶してしまったので、両親が止血して、一命はとりとめた。
 もしもこういう強盗が捕まったら、たぶん警察に渡される前に、殺されてしまうだろう。以前、わたしは、万引きした男が捕まったのを見たことがある。犯人はまだ少年だった。その子が店まで連れ戻されたとき、その子の顔は血だらけで、鼻はつぶれ、目玉は飛び出し、前歯は無くなっていた。捕まったときに、殴る蹴ると、徹底的に暴行されたのだ。
 少し前になるけど、この高級住宅街でも続けて二件、強盗事件があった。
 隣の中国人の家では、夜中の三時に強盗が押し入ろうとしたが入れず、結局、玄関のガラス戸を叩き割り、そこにあった靴を三足持っていった。
 その家の若奥様は、一足、三十万ルピアもする物だ、と吹聴していたが、その家のメイドによると、せいぜい一足、三万ルピアの品物だそうだ。
 もう一件は向かい側の家だった。やはり真昼中に強盗が入り、客間からビデオやステレオオセットを持ち出した。だが、家の人たちは、それを知っていて寝室のドアを堅く閉じ、息をひそめていたという。
 この二件が続いて起こったため、この住宅街でも自衛団を作ることにした。ちょうどお金持ちの警察官が住んでいるので、この人が音頭を取った。
 だが、ここに住む中国系の多くは分担金を払わない。自分で自分の身は守るから、余計なお世話だという。だが、ともかく、自衛団ができてから、強盗事件は無くなった。
 この二件にしてもサリーさんにしても、何故か警察には被害届を出さない。
 サリーさんによると
「警察なんかに頼ったって駄目よ。逆にワイロを要求されて、かえって高くつくわ。それに、中国系の家を襲う強盗は、警察とグルになっている、という話もあるくらいよ」
 とのことだ。これでは強盗が、中国系ばかり狙っても当然だ。
 強盗といえば、昨夜のメイドの集まりでも泥棒の話がでた。
 マディウンという町で、ある宝石店から金の鎖を万引きした者がいた。真っ昼間の事で、店の人がその泥棒を追いかけ、他の店に逃げ込んだ泥棒を捕まえた。捕まえてみたら、なんとそれはサルだったという。
「ブラック・マジックを使って泥棒がサルに変身してたのよ!」
 と、あるメイドは目を輝かす。サルに変身すれば、『なんだサルか』ということになる。そして無罪放免になるというのだ。
「誰か、サル使いがいて泥棒させたんじゃないの?」
「でも、盗んだときは人間だったのよ」
「じゃー、盗んだ人がサルに渡して逃げたのよ、きっと・・・」
 と、わたしは反論した。
 結局、わたしの意見は少数派だった。メイド仲間のほとんどは、ブラック・マジックを使った説に賛成だった。
 泥棒には要領の良い者もいる。
 ある日本人夫妻は転勤が近づき、毎晩サヨナラパーティーで忙しかった。
 忙しい中での荷造りだったので、引っ越し準備が終わったのは、出発前の朝、二時だった。そしてご夫妻が疲れ果てて寝込んだところに泥棒が入ったのである。
 箱に入ったステレオやテレビ、ギターなどを、泥棒たちはトラックに積み込んで、アッという間に持ち去った。
 庭の門にも、家の扉にも鍵が掛かってなかったのだ。もちろん、メイドが閉め忘れたのである。ご夫妻はメイドが手引きしたに違いないと思い、メイドを脅かしてみたが、証拠はないし、あとの祭りだったという。
 コンコンは一ヶ月後に、ピストル強盗の大男と、道でバッタリ出くわした。
 大男は親しげに寄ってきて
「先日はどうも・・・お世話になりまして」
 と、深々と頭を下げた。
 コンコンは『友達づきあいされちゃーかなわん』と思って、一目散に逃げ帰ったそうだ。

(つづく)

これまでのコラム
kitombo.com