翌日の朝、正太はおにぎりと惣菜を持ってアパートにやってきた。
「おっちゃん、おはよう。朝御飯を持ってきたで。一緒に食べよう」
ドアをノックしても、中からは物音がしなかった。
「おかしいなあ。散歩でも行ったんかな」
ノブに手を掛けると、カギは開いていた。
「おっちゃん。入るで。まったく不用心やな」
正太が上がり込むと、ゲンさんはまだ布団の中で眠っていた。
「よっぽど疲れたんやなあ」
正太は起こさないように、やかんに水を入れ、それを火にかけた。振り返ると、ゲンさんは笑っているように眠っていた。しかし、その表情は確かに固まっていた。
「おっちゃん」
正太は大声で叫んだ。身体を揺すり、何度も何度も大声で呼んだ。ゲンさんは、目を覚ますことはなかった。
その顔は、まるで終の住処を見つけたかのように、穏やかなものだった。
<了>