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今週の疑問
「『神の手』に罪は無かった(2)」

大地舜
ニューパースペクティブス・クオータリー東京駐在員
1月22日

六年たって判明した
前期旧石器遺跡ねつ造事件の真相と
低迷する旧石器考古学

考古学の「発掘方法の常識」から大きく逸脱
 このように風向きが変わったのはなぜだろうか?
 それは、ねつ造された旧石器遺跡群の再検証が終わり、調査結果が出たためだ。その調査結果は『前・中期旧石器問題の検証』(日本考古学協会二〇〇三年)という六二五ページの報告書にまとめられている。
 この再検証による調査では、重大な発見が幾つかあった。
 その第一は、岡村道雄や鎌田俊昭や梶原洋などが指導した、座散乱木遺跡と馬場壇遺跡の調査方法が、考古学における「発掘方法の常識」から大きく逸脱していたことだ。この二つの遺跡は特に重要だ。なぜなら、この二つの遺跡の発掘成果で、日本に前期旧石器時代が存在したことになったからだ。
 「発掘方法の常識」からの逸脱について、国学院大学の小林達雄教授は次のように言う。
 「石器など貴重なものが地面から顔を出したときは、何枚も、何枚も写真を撮りながら掘り進むものです。ところが取り上げてから置いた写真しかないのです。それはとってもおかしなことです。後期旧石器の発掘でも、石器が出始めたら写真を撮り、仲間の石器を探して写真を撮り、それから石器を取り上げるのが当たり前です。・・・彼らはいいかげんな発掘をしています。未知の世界に踏み込む遺跡で、しかも彼らだけが発掘している遺跡で、このようにいいかげんだとは、思いも寄りませんでした」
 取り上げる前の写真がないということは、石器の出土状態の確認をしなかったということだ。首都大学の小野昭教授もショックを隠せない。
 「一万二〇〇〇年前のローム層から出てくる石器は地面にがっちり、ぴったり張り付いて出てきます。そしていかにも一万年経過しているという雰囲気があります。ところが藤村関連の遺跡では、出土状態を確認しないうちから取り上げています。しかも最初からその方法だったとわかってショックでした」
 岡村道雄や梶原洋の発掘現場では、石器を発見するとすぐに取り上げて洗い、濡れた石器をものとの場所に戻して写真を撮っていた。したがって写真を見ると石器の周りが黒く見える。これは前代未聞の発掘方法だほとんどの考古学者はいうが、岡村道雄は次のように述べる。
 「結果的に写真を撮るのがすべて終わってからだった、といわれればそれはその通りですね。その中に作為があったのではないかと言われると、コメントのしようがありません・・・出土状況をそのまま写真に撮ることなどは特別な目的が無い限りありませんよ」

ガジリと黒土の謎
 座散乱木遺跡の再検証で判明した大問題のもう一つは、「神の手」が挿入した石器にガジリ(後世の新しい傷)や鉄の条痕、黒い土などが付着していたことだ。
 ガジリとは考古学をかじったものなら誰でも知っているが、発掘の時に石器に金属製の掘る道具(移植ベラ)がぶつかったりして生ずる傷のことだ。畑の中で見つかる石器には、金属製の農耕器具で傷つけられるものもある。これにはガジリだけでなく、独特の鉄の錆のような条痕の跡が残る。また、石器に黒土が付着しているということは、現代の地表から拾ってきた石器であることを示す。
 座散乱木遺跡一三層上面からでた前期旧石器時代のものとされた石器の、再検証による観察結果を見てみよう。
 これによると、黒土が付着していた石器は二二点で四七・八%。ガジリが見られる石器は一八点で三六・七%、鉄の条痕が見られる石器は二五点で五一%という結果が出ている。
 これは何を意味するのか? 鉄の条痕については、岩手県の考古学者で地質学者の菊池強一が再検証の時に褐鉄鉱の研究を発表するまで、詳しいことを知らない考古学者がほとんどだった。だが黒土の付着と、ガジリについては、旧石器の考古学者ならばだれでも知っている。
 小林達雄が述べるように、岡村道雄や鎌田俊昭が石器に見られるガジリに気がつかなかったことはありえない。しかもガジリが一つの石器の裏と表に見られるものが五点もあるのだ。一つだったら発掘の時に傷つける可能性がある。だが二つもついていることは考えられない。
 調査研究特別委員会副委員長の春成秀爾(国立歴史民俗博物館教授)は次のように述べている。
 「座散乱木や馬場壇の報告書で石器の実測図は綺麗に描いてある・・・石器の刃部の角度を測って細かな分析をしているけれども、ガジリと古い剥離面とを区別せず、ガジリの角度も測っている・・・ガジリだらけの石器を分析対象に選んでいたこと、表面が薄汚れた石器の使用痕を高精度の光学顕微鏡を使って調べ、木を削った石器、皮なめしに使った石器などと結果を出していることも驚きであった」
 高精度の光学顕微鏡を使用して石器の使用痕を調べたのは梶原洋だ。その時に黒土の付着に気がつかなかったのだろうか? 

(つづく)

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