(ウイークリー・ヨミウリ2002年8月掲載に加筆)
「インドのジョン科学技術相は16日、同国西部グジャラート州カンベイ湾スラト沖で9500年前のものとみられる古代都市の遺跡が見つかったと発表した・・・発見されたのは、木片やつぼのかけら、骨の化石などで・・・放射性炭素を使った測定法で木片を調べたところ、紀元前7500年頃前のものと推定された。また海底には、建造物らしいものがあることが水中音波探査装置で分かったという」(読売新聞2002年1月7日朝刊)

気楽に読まれた方もいるかもしれないが、この記事の意味することは、衝撃的だ。
第一に、これまで学校で教わってきた、「人類の文明は5500年前頃シュメールで始まった」という考えを捨てなければならなくなる。第2に、古代エジプト、古代中国、古代マヤ、古代シュメールなどの5大文明が、高度な失われた文明から遺産を引き継いでいた可能性が出てくる。
100年も前から、多くの科学者が、声を大にして「失われた文明が存在する」と主張してきたが、主流派の科学者には受け入れられてこなかった。なぜなら、陸地をいくら探しても、失われた文明の痕跡が見つからなかったからだ。だが、海底を探せば、カンベイ湾の都市遺跡のような失われた文明の痕跡が見つかることが、証明されたのか?
さて、1月17日の後、さらに詳しい報告があるだろうと6カ月も待ったが、何の報道もない。そこで海底都市を発見したインド国立海洋技術研究所(NIOT)を直接訪ねてみることにした。この大発見を額面通り受け取っても大丈夫かどうかを、確認したかったのだ。
NIOTに電話をいれたところ、大歓迎だとのこと。早速、7月後半にチェンナイ(旧称マドラス)市に飛んだ。インド工科大学の広い敷地の一角を占めるNIOTで働く地質学者・生物学者たちは、活気にあふれていた。今回の発見で意気軒高なのだ。
「私は海底と地上の地形地質調査に30年の経験があります。人工物と自然の造形を間違えることはありません。カンベイ湾スラト沖の海底40メートルの砂の下には、古代都市が眠っています。モヘンジョダロやハラッパーなどとそっくりの町並みです」と、NIOTの地質学コンサルタントのS・バドリナラヤン氏は、確信をもって語る。
地図を見て欲しいが、カンベイ湾スラト沖というと、インド北西部グジャラート州カーティアワール半島の南側だ。カーティアワール半島一帯には数多くの、インダス文明の遺跡が発掘されており、カンベイ湾の海底に都市跡が発見されても、場所的に不思議はない。だが、問題は、海底40メートルの深さに水没していることだ。
ご存知のように今から1万7000年前に氷河期は最盛期を迎え、地球上の氷冠が拡大し、海の水が氷河に凍結して、海面の高さが、現在よりも一二〇メートルから一四〇メートルも低かった。その後、氷が溶けはじめ、今から7000年前には、ほぼ、現在の海面の高さになったことが分かっている。
したがって、氷河が溶けたことによる海面の上昇だけから考えると、この都市が水没したのは、少なくとも7000年前になる。水没のもう一つの可能性は、地震などの地殻変動によってこの地帯が沈降したことだ。カーティアワール半島一帯は、地震が多いことで知られている。だが、サブボトム・プロファイラーという、海底の下の地層を調べることができる装置で調査したところ、建物の土台の跡がそのまま残っており、地震で崩壊した様子は見られない。したがって、地震による水没ではないだろう。
サブボトム・プロファイラー装置については、知らない人も多いと思う。この装置は低周波の音波を発して、海底下の地層を調べるものだ。機械によっては海底下二〇メートルまで調査できる。インド国立海洋技術研究所が使用している装置はアメリカ製の最新鋭デジタル機だ。海底に細かく並行線を描くように音波を当て、後から、その断面図をつなぎあわせると、海底下の地層の立体図が浮かび上がるのだ。
一方、サイドスキャナーという装置は同じ技術を使うが、海底の姿の鳥瞰図を作るものだ。(つづく)