kitombo.com | 今週の疑問 | 2003年4月28日
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今週の疑問
「南半球からの視点(1)
「いや、日本人はやってこない」」

(1989年1月1日『実業の日本』掲載)

大地舜
4月28日


 今から14年前、日本はバブル経済の真っ最中。『昇竜』日本は世界を買い占めていた。当時オーストラリアのシドニー郊外に住んで日本企業に勤めていた筆者は、唖然としてそれらの変化を眺めていた。そのころ書いたコラムをお届けする。まさに「驕れるもの久しからず」であり、感慨深い。

爆発した反日感情
「日本人にオーストラリアを売り渡すな!」
「戦争でやっつけた日本人に、平和なときに侵略されている。戦争中、多くの同胞が日本人に虐殺されたことを忘れるな」
「パールハーバー、マレー半島を忘れるな。日本人は信用できない。いつ約束を破ってオーストラリアを侵略するか分からない」

 1988年、地元の新聞に連日のように、このような「反日」の投書が寄せられた。
 事の発端は、ブルーマウンテンズ市の市役所が、年々増加する日本人観光客のため、観光の要所に日本語の掲示板を置こう、と提案したことにあった。
 その提案を機に、一気に反日感情が爆発したのである。
 ブルーマウンテンズ市は、シドニー市近郊の、日本の箱根を思わせる風光明媚な別荘地帯で、多くのお年寄りが送っている。そしてこれらのお年寄りの中には、日本軍と戦った人々、シンガポールのチェンジ捕虜収容所(日本軍運営)で、餓死すれすれの目にあって、生き延びてきた人々がいる。
 これら、辛酸を嘗めてきたお年寄りの多くは、あまり過去を語りたがらない。だが、その親族たちは、いまだに彼らの代わりに激怒しているように思われる この士地に住んでいると、お年寄りの中には日本人と見ると憎悪の目でにらみ、そばに近づいて来ない人がいることに、気づかざるを得ない。
 そんな時期に「シルバーコロンビア」なる通産省の計画が大々的に報道された。
 日本のお年寄りの老後を海外で過させようという企画である。そして、望ましい候補地としてオーストラリアが挙げられていた。
 オーストラリアのお年寄りたちが不愉快に感じたであろうことは、誰にでも想像がつくと思う。

白豪主義は捨てたが…
「シルバーコロンビア」の計画に対して、オーストラリアの代表的な新聞である「シドニー・モーニングヘラルド」は、「いや、日本人はやって来ない」という社説を掲載した。
 その社説のポイントは以下の通りである。
 一、シルバーコロンビアの提案そのものよりも、日本の極端な白民族中心主義が、こうもあからさまにされたこと、そして通産省が、このような提案を公式に認めたことが興味深い。
 二、老人を海外に送り込んでも、日本国内の老人問題は解決しない。
 三、通産省のオーストラリアの移民政策に対する無知にも驚く。わが国が日本人村の建設などを許すわけがないではないか。

 オーストラリアは白豪主義を確かに捨てた。だからといって、「お金持ち日本」の老人が大挙して押し寄せて行って大歓迎されると思ったら大間違いである。
 オーストラリアが本格的に白豪主義を捨てたのは、ほんの少し前の一九七五年からである。それ以来、ベトナム、ラオスの難民を始めとして、多くのアジア・アフリカ系の移民を受け入れてきた。
 シドニーやメルボルンの街を歩くと、アラブ人はいるし、中国人、.インド人、ギリシャ人などが多く、まさに人種のるつぼと化しておりカラフルである。街には世界中の料理店が、それぞれ民族色豊かに店を開き、魅力的なコスモポリタン都市を形成している。
 しかし、それは大都会だけである。大都市を一歩離れると、そこは、昔ながらのモノトーンの世界である。筆者の往むブルーマウンテンズ市も、その住民のほとんどは、イギリス系、アイルランド系オーストラリア人で「白豪モノトーン」そのものである。
 そして、意識もいまだに「白豪主義」的である。
 日本人の多くはオーストラリアを親日国だと思っているようだ。確かに日本語を学ぶ子供たちは多いし、親日家もたくさんいる。しかしもろ手を挙げての親日国では全くない。日本とインドネシアの区別のつかないオーストラリア人がまだたくさんいるし、戦争の傷跡もまだ痛々しく残っている。

「日本に買収されてしまう」
「我々はまず牧場を目本人たちに売った。そして今度は動物たちだ」
「この裏切り行為に対して、墓地に眠る戦士たちは何と言うだろうか?」
 これは、今年の初め、ある日本企業がブリスベーン市のローンパインというコアラパークを買収したことに対する、地元の人々の反発である。
 日本企業は円高に乗って、オーストラリアの土地や建物をどんどん買収している。そして、多くのオーストラリア人が、「オーストラリアは日本に買収されてしまう」と恐れている。
 オーストラリアは移民の国であり、多くの大企業もまた外国資本である。したがって、基本的に外国企業の進出には、寛容な風土を持っている。しかし、それも主として言葉や習慣を同じくする欧米企業に対してであって、日本やマレーシア、香港などからの進出に対しては警戒心を持っている。
 それも当然だろう、初めてに近い経験だし、急激な増加だ。から・・・。
 南半球から見た日本の経済力は、日本人が意識しているより巨大であり、空恐ろしい存在である。
「いつまでも日本人を毛嫌いするのは止めたらどうだ。嫌いだ嫌いだと言って、乗ってる車はトヨタやホンダじゃないか」
 そういって、ある友人は自分の両親を筆者の家で開いたパーティに連れてきた。オーストラリア人の多くにとって、日本人はまだ得体の知れない人々であり、昔の敵であり、有能なことが分かるだけ、より一層不気味な存在なのである。
 豊かであるという生活実感のない日本人でも、一億人集まると巨大な経済勢力となり、南半球の諸国まで不安に陥れるのである。
 多くの抵抗を乗り越えて、白豪主義から脱皮し、新しい国づくりに励んでいるオーストラリアは、日本にとって、得難い友人となりうる国である。
 それには、我々が、彼らの複雑な気持ちを理解する必要があるし、シルバーコロンビアのような、この国の人々の神経を逆なでするような企画を、政府が後押しするようでは、困るのである。

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