日オーストラリアに住んでいたころ、私は馬主だった。だが日本に帰ってからは、競馬馬の馬主になるなど、夢のまた夢、となってしまった。オーストラリアには小規模のレストランやホテルなどの大きな市場があり、簡単に購入できる。ステーキハウスを購入して、すぐに商売をはじめる・・・などということもできる。中でも日本との一番の違いは、オーストラリアでは、骨身惜しまず働けば、だれでも大金持ちになれることだと思う。ただし、人任せにはできないのが難点だが・・・。
誰でも馬主になれる
「ガンバレ、ガンバレ!」
「ヤッター!」
茶色の小柄なサラブレッドが断トツのトップでゴールポストを横切った。
筆者がジョンと共同で走らせている競走馬の「ジャスト・ア・メモリー」は、この日で五回目の優勝である。
過去二年間に一七回走って、五回優勝し、一〇回入賞している。当然、筆者の経費を差っ引いた純利益も四〇〇〇ドル(四〇万円)となり、全く笑いが止まらない。
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「シュン、俺のパートナーになれよ、儲かる保証はないけど、チャンスはある。この馬は、俺の持っている馬で一番有望なんだ。全く勝たなくても、シュンの損失は年間一四〇〇ドル程度で済む。共同馬主は四人にするから・・・」
獣医をしている、ジョンからは三力月間にわたって勧誘された。
「シュン、止めとけ、止めとけ、ジョンはいい奴だけど賭け事には弱いのさ、あいつはまだ一度も、馬で儲けたことがないんだ」
「そうだろうな、じゃなきゃ-ズブの素人の俺なんかを誘ったりしないだろーな・・・」
友人たちのほとんどからは反対されたが、ジョンのパートナーになることに決めたのは、二年前である。理由は、欧米社会では競馬の社会的地位が極めて高いので、どんな世界か覗いて見たかったからである。
大方の予想を裏切って「ジャスト・ア・メモリー」はよく優勝してきた。筆者もシドニーの競馬場に背広を来て出かけ、馬主・会員席から競馬を楽しむことが出来た。
さて、日本ではこんなに簡単に馬主となれるのだろうか? 筆者は全く門外漢で、日本の競馬界の事情は知らない。だがもっとお金がかかると思う。
オーストラリアでも競走馬の所有者といったらやはりお金持ちという印象を受ける。だが、ただの庶民である筆者にも参画できるのである、門戸が広いのは間違いないだろう。
そしてジョンには、今度は種馬を育て、競走馬を売る仕事のパートナーになるように誘われている。二年前に三〇〇〇ドルで買えた「ジャスト・ア・メモリー」が今では六万ドルはするというのだから、悪い商売でもなさそうだ。
まだ安い郊外の不動産
競馬の例から見ても分かるように南半球ではせちがらい日本の経済観念は通用しない。
例えば、このラッキー・カントリーは移民の国なのである。酉暦二〇二〇年には、人口が今の四〇%増しになると予測されている。
シドニー市から西六〇キロほど内陸に入ったところに、ペンリスという町がある。シドニー市のベッドタウンなのだが、この町の人口は一〇年後には三借になるという。
シドニーの中心地が西に移動する傾向にあることと、最近の土地、家屋の異常な高騰で、シドニーに住んでいた人々が郊外に移動し始めたことなどが、その主な原因である。
こういう場所に店舗や、家を持っていれば、将来価値が上がることは目に見えている。そして、この辺りの店舗や家屋の値段は、まだまだ極めて安いのである。
「フランク、商売繁盛している?」
「ああ、まあまあだ」
「ところで、カットプライス・チェーンストアは幾らで買ったの? 二〇万ドル(二〇〇〇万円)はしただろうな」
「いやー、在庫品も買ったから、もーちよっとしたよ」
「ボブのコンビニヱンス・ストアも売りに出ているんだって?」
「うん、三〇万ドルで売りたいらしいぜ」
「それだけ金を使うなら、ドン・ケリーのガソリン・スタンドでも買ったほうがいいな」
「いやー、あそこは四五万ドルで売るんだそうだ」
「そりゃー、無理だな・・・、買い手がつくはずないな。ドンは本気で売る気がないんだろう・・・」
「うん、多分な」
オーストラリアでは、ありとあらゆる種類の店鋪が売りに出ている。ホテル・モーテルからレストラン、おもちゃ屋まで、市場があるのだ。
そして、お店の経営者になるのに専門知識はいらない。店舗を買うと、店の経営のノウハウまで教えてくれるからである。
親は店を売って楽隠居
「キースは料理の趣味でもあったんだろうね?」
「まあ、興味はあったけど、商売にしようとは考えていなかったなー」
元カンタス航空の総務部長をしていたキースは、今はステーキハウス兼モーテルの所有者になっている。
「それで……、今売りに出しているんだって?」
「うん、買ったときの借の値段で売れたら売るよ」
「それでどうするの・・・?」
「ウーン、まあタイかネパールに一ヵ月ぐらい行ってくるかな」
「その後どうするの?」
「ウーン、まだ何も決めてないけど、今度は喫茶店でも買ってみるかな」
キースのように、次から次へと店を買ったり売ったりするのは、南半球では珍しくない。大きな市場があり、日常茶飯事の出来事なのである。
日本では、親から子へと店舗を譲っていくケースがほとんどのようである。だから、簡単に“商売”を買ったりは出来ないようだ。だが土地が広く、豊かで自由なこの国では、親はサッサと店舗を売ってしまい、そして楽隠居を決め込んでしまうケースが多い。子は子で、自分のやりたいことをやるのである。
アメリカ、オーストラリアなどの新世界と、日本やヨーロッパなどの旧世界との、生活スタイルの違いなのであろう。
さて、それでは、具体的にどんな投資が考えられるかについては、次号でふれてみたい。
また、南半球に投資をする際の心構え、成功の条件などについても考えてみよう。