契約社会は欧米の仕組みだが、いろいろ雑多な人種が入り込んでも対応できるという、優れた特質がある。これは古くから異民族の侵入にさらされてきた民族の知恵だろう。一方、島国の日本では、外国の文化を平和裏に吸収することが多く、独得な文化を作り上げてきた。この調和を基礎とする社会は、異文化、異民族を受けいれられるようにはなっていない。
だから日本は今でも独得な島。
だが社会の仕組みはいろいろ異なっても、人間の本質は変わらない。どこにでも詐欺師がいる。そしてお金のためなら、魂を売る人も多い。
ハンコックさんの新刊『タルスマン』は欧米の裏の歴史の本。そのなかに出てくるのは「光の神」を信奉する人々。彼らは悪魔に支配されているカソリック教と戦う集団。このグループが、世界の宗教の基礎として今も生きていたら、お金のために魂を売る人々は出てこないのに、残念。
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日本人は不正直?
「構わないわよ。見つかりっこないわよ、隠して持って行きなさいヨ」
「オーストラリアに帰ってすぐ食べたいんでしょ…」
「でも、税関には捕まりたくないしね……」
インドネシア旅行から帰るとき、筆者のボスは、友人たちから、肉や、香辛料などのお土産を、たくさん貰ったのである。
「せっかく皆がくれたんだし、持っていかないと悪いしネ」
「うーん」
「申告書は正確ですね?」
そう聞きながら、シドニー空港の金髪の女性税関職員はスーツケースを開けた。
「これは何ですか?」
それまで、ミロのビーナスのような柔和な笑みを浮かべていた税関職員の顔が、急にこわばった。
干した牛肉の袋が出てきたのだ。
ミロのビーナスの顔が紅潮した。ギラギラした眼で私達をにらんだ。そして、憤まんやるかたない、といった様子で、額に落ちてきた髪を掻き上げた。
「もう他にはないでしょうね!」
「スミマセン……もうありません」
「じゃー、肉は没収しますヨ」
ミロのビーナスは、天を仰ぎ、爆発しそうな感情を必死に抑えて、去って行った。
でも、これだけで済んだのは、幸運と言うべきだったろう。別室に連れ込まれ、洗いざらい調べられたって、文句はいえなかったのだ。
ある日本人の会社員は、鮭の燻製を駐在員へのお土産に持ってきた。ところが税関で見つかってしまった。鮭はオーストラリアでもとれ、輸入禁止品になっている。
契約社会では、ルールを守らないと、厳罰に処されるのだ。
日本の「調和社会」では「みんながやっているし、大したことじゃないから、大目に見てくれるかも……」などという甘い幻想を抱き、ルールを無視することもままありがち。だが、欧米の契約社会では、ルール違反は一切通用しない。
筆者もボスも、恥ずかしながらこの一件に懲りて、今では、税関に引っ掛かりそうな物は、一まとめにして手提げ袋に入れ、税関職員に見せるようにしている。
シドニーの税関では、「一般的に日本人は不正直な申告々する」という定評があり、日本人をブラックリストの上位に載せているそうである。
契約杜会のルール
「家を人に貸すのはいいけど、うっかりすると、そのまま居座られたりすると嫌だしなー」
「何を言っているんだシュン、そんな奴、警察を呼んできて、追い出せばいいじゃないか」
「工-、そんなこと出来るの?」
「当たり前だよ」
「でも・・・チョット厳し過ぎるんじゃない?」
「賃貸契約のルールを守らない奴なんて、どっちみち人間のクズさ、だから警察に追い出されても当たり前だよ」
「ウーン」
不動産屋のケリーは事もなげに言う。
このようにはっきりと言い切れる背景には、契約というものは、関係者に「公平」なものだ、という信念があるようだ。
だから、「公平」つまり「フェア」に出来ている契約を一方的に破る奴は悪人だ、と割り切れるわけである。
この「フェア」の観念は、契約社会では、きわめて重要視されている。
決められたルールないし契約に対して「フェア」であることは、契約社会が拠って立つ基盤であり、「アンフェア」が横行したら、契約社会は混乱に陥り、成り立っていかない。
だから「お前はアンフェアだ!」と言われることは、この国の人々にとって一番の侮辱になる。なぜなら、「お前はこの契約社会に住む資格がない」と宣言されているのと同じだからである。
こういう意識の中に住む契約社会の住人は、確かに表面的にはルールをよく守り、「アンフェア」などと後ろ指を差されるようなことはしないように努めている。
だが、だからといって、善人が多いと思ったら、それは大間違いである。
契約社会には「公平」のルールを悪用する「海賊たち」もまた、きわめて多いのである。
「海賊たち」の手口
「海賊たち」の手口には少なくとも三種類はあるようだ。
まず、「アンフェア」な内容の契約書を「フェア」であると偽るケース。
「フェア」の観念は、人の立場、考え方によって変わりうる。だから、外国で契約を結ぶときには、その内容が自分にとって「フェア」であるかどうかを、十分に検討する必要がある。
次は、契約書の不備を突いて、理屈をこじつけ違約金などを取るケース。
海外工事などで、日本企業がよくこの手に悩まされているという話を聞く。
そして、「フェア」な契約を一方的に破る犯罪者のケース。
今は億万長者となったジョニーの父親も、かつてはこんな「海賊」に一文無しにされた一人だという。
「俺の親父はね、チョットした資産家だったのさ。大きな牧場を経営し、大きな家を建てた直後に、詐歎にあったんだ。親父は、使っていた会計士に、株式投資するように勧められたのさ。親父は、家、土地を担保にいれて、銀行から金を借りたんだが、会計士は、その金を持ってドロンしたわけだ」
「警察に訴えなかったの?」
「もちろん裁判沙汰にしたさ。だけど、その会計士は、裁判に出頭するその日に高速道路で事故を起こし、丸焦げになってしまったんだ」
「死んだのは本当に本人なの?」
「いや、それがはっきりしなくてねー、なにしろ丸焦げで、身元確認が出来なくて。ただ、奴がその車に乗って家を出たのは確かなんだ」
「何か小説みたいな話だな…」
「ウン、俺は、奴がまだ生きていると思って、この十年間目を光らせてきたんだが、何の収穫もなかったよ」