集まったのは七〇人ぐらい。ロビン、スー、ジュデイ、ジョナサンも、みんな居た。記者兼ファッションモデルだったスーは四〇歳になってもゴージャスで、ダンスも上手。ジョナサンは会社の社長。ジュデイはデザイナー。マルコムはアラスカ知事の首席報道官。
二五年ぶりに会ったが、複雑な心境だった。なんせ私は、当時、英語も下手で、みんなに助けてもらうことばかりが多かったからだ。だがそこは大和魂、サムライらしく、ダンスや会話を楽しんだ。
土地が変わると人情も変わる。オーストラリアのメイト主義などは知っておくと便利。
サンタモニカの海岸で
「どうしたんだ、シュン」
「メガネを海に落としたんだ」
「どの辺だ?」
「ウーン、分からないけど、海からまっすぐ上がって来たからなー-…」
「ヨシ! じゃー、皆で探そう」
「エツー?」
「オーイ!みんな集まれ! シュンがメガネを海に落としたんだ。これから、見つけるんだ」
マルコムが叫んだので、編集部の仲間たち、男女七、八人が集まってきた。ロビン、スー、ジュデイ、ジョナサン……みんな二十代のライターであり、イラストレーターだった。
「そんな、無理だよ、俺のためにそんなことしなくていいよ」
私は、ボディーサーフの練習を、メガネをかけたまましていて、大波に飲み込まれ、波の中で二、三回転したとき、メガネが海に落ちてしまったのだ。
私は、無謀なことをしていた訳で、自業自得と、あっさり諦めていたのである。
「さあ、みんな一列に並んで! 腕を組んで、沖に向かって、ユックリ歩いて行くんだ、いいか!」
「オウ!」
私は、マルコムをストップすることも諦めた。
〈まあいいや、ゲームのつもりなんだろう。全く、酔狂な達中だ〉
私は、半信半疑で、マルコムの隣に立ち、スーとも腕を組んだ。
「行くぞ!」
九人は、ユックリと沖に向かって歩き始めた。
それは、サンタモニカの海岸だった。
二十代の前半、私は、アメリカの雑誌の編集部に勤めていた。そして毎週、水曜日の三時からは、若い仲間と海岸に行き、バレーボールや波乗りを楽しんでいた。
<結論は出ている。メガネが大海の中から出てくる訳がないのだ…・・・。でも、まあいいや、スーと腕を組んでるし>
可愛くて、薄いブルーのビキニのよく似合うスーは、記者なのだが、ファッションモデルとしても売れていた。
「ストツプ!」
ジュデイの声だった。
「何か、足に引っ掛かったワ・・・」
ジュデイは下を向いて、何かを拾い上げた。
「やった-!」
「………ア・・・、アリガトウ・・・」
紛れもなく、それは私のメガネであった。
何事にも、諦観の発達している東洋の国の筆者に、この一件は良い教訓を与えてくれた。
メイト(友達)主義
マルコムたちが持っている「ネバー・ギブアップ」<決して、諦めない>の精神は、アメリカだけでなく、ここオーストラリアにもある。新世界を切り開いてきた開拓者魂なのであろう。
だが、オーストラリアには、さらに独特の精神がある。
***
「シュン、オーストラリアのパブで酒を飲む時は、絶対に、コップを伏せてテーブルの上に置くなよ。コップを伏せて置くと、<俺はこのパブで一番強いんだ、文旬のある奴は、出てこい>と宣言をしたことになるんだ。そしたら、腕っぶしに自信のある奴が出てきて、いきなり殴られるからな」
今は、仕事のパートナーとなったジョニーに、初めて夕食に呼ばれたときに、言われたことだ。
「それから、もう一つ、パブでビールをおごって貰ったら必ずおこり返せよ。そうしないと、お高く留まっている奴だ、と思われて嫌われるぜ。俺の国で一番嫌われるのは、ポミーみたいに、お高く留まっている奴なんだ」
「ポミーって何?」
「なんだい、ポミーも知らないのか! イギリス人のことだよ。奴らは俺たちのことを見下して、お高く留まっているのさ。オーストラリアは階級のない社会だったんだ。それが俺達の誇りだったんだけど、最近は残念ながら、イギリスみたいな階級が出来つつあるんだ。それでも、俺達は、やっぱり、皆“メイト“(友達)でなきゃいけないんだ。それがオーストラリア魂だよ」
「ふーん、オーストラリア人が一番好きなのは、イギリス人だと思っていたよ。金物屋のビルなんて、全くの英国崇拝者じゃない?」
「奴は、まだ白豪主義の中に生きている人間さ。それでも、奴は、大衆パブに行くだろう? そこで労働者階級の連中とビールを飲みながら、“俺は金持ちでも、お高くは留まってないぞ”ってことを示しているのさ」
ビールの消費量
オーストラリアのパブに行くと、見知らぬ人々でもすぐ友達になれる。そして、四、五人の間で、ビールをおごったり、おごられたりする。従って最低でも大きなコップに四、五杯は飲むことになる。
二、三時間パブにいたら、一五杯、二〇杯とビールを飲むことになりかねない。一人当たりのビールの消費量が日本人の三倍だというが、それも、この飲み方ならうなずけるわけである。
オーストラリアは二〇世紀の初めには、世界一の金持ちの国であった。ところが、今は二〇番台の後半である。
そして、外国への政府借款は、一九七〇年は三五億ドルだったが、今では一〇〇〇億ドルに追っている。メキシコ、ブラジルと余り変わらない。
著名な実業家ジョン・レアード氏に言わせると、それはウイットラム労働党政権に始まり、今も続いている社会福祉政策の行き過ぎにあるという。政府が外国からお金を借りて、国民の生活水準を保とうとしてきた、というわけだ。
平等主義、メイト主義の理想が、空振りしてしまった、と言うのが現在のオーストラリアの姿である。
***
「ジョニーはメイト主義がオーストラリア魂だってさ。そんなものかね?」
「それは男の世界だけじゃない? それより、“ドント・ウオーリー、ユー・ウィル・ビ・ライト”の精神が、オーストラリア魂よ。この国の人って、すぐ言うじゃない、何とかなるよ、心配するなって。すごい楽観的なのネ」
筆者のボスが言うとおり、この方が本当のオーストラリア魂かも知れない。