出アフリカ
今からおよそ170万年前、人類史上最初にアフリカの地から第一歩を踏み出したホモ・エルガスターが現れた。最近では、初期にアフリカに現れたものを、ホモ・エルガスター、アジアにまで進出したものをホモ・エレクトスとして区別する傾向にあるようだが、従来はホモ・エルガスターはアフリカのみの初期ホモ・エレクトスとする考え方が主流だった。
しかし2000年にグルジア共和国で約170万年前のホモ・エルガスターと思われる化石が発見された事から、予想以上に早い段階でホモ・エルガスターがアフリカを出ていた事が明らかになってきた。この為、現在ではアジアに進出した者のみを、ホモ・エレクトスと呼び、それ以外をホモ・エルガスターと呼ぶ事になっている。
この、初めてアフリカを出て、世界中に広まっていったホモ・エルガスターとホモ・エレクトスは原人段階にあたる。

アジアに最初にあらわれたホモ・エレクトスは、インドネシアのジャワ原人で、およそ120万年前の事である。おそらく海岸沿いを、東へ辿ったホモ・エルガスターの集団が、温暖で湿潤な気候のインドネシアに住みつきホモ・エレクトスになったのだろう。この頃までの人類化石は、いずれも比較的温暖な気候の場所で発見されている。これは、おそらく水辺を好む性質と深く関係していると思われる。逆に考えれば、元々熱帯で誕生した人類の祖先は水辺を好むがゆえに温かい熱帯地方でのみ繁栄したのだろう。
しかし、ホモ・エレクトスも後半になってくると、すこし事情が違ってくる。およそ50万年前に出現した北京原人は、ついに温帯地方にまで進出したのだ。これは、人類の祖先の一部は、この頃から完全に水辺を離れた生活を始めたと考えられるのでは無いだろうか。
水辺を離れ陸上に戻ったホモ・エレクトスは、再び体毛を発達させる代わりに、衣服を身に着けるようになったのだろう。おそらく、火の使用もこの頃にはじまったと考えられている。
東アジアで、ホモ・エレクトスが温帯地方にまで進出し、やがて大茘(ターリー)人などの旧人の段階に進化していく一方、ユーラシア大陸の西端でも温帯地方から氷河に覆われたヨーロッパにまで進出が始まっていた。ホモ・ハイデルベルゲンシス(ハイデルベルク人)やホモ・サピエンス・ネアンデルターレンシス(ネアンデルタール人)である。
これらのホモ・エレクトスの次の段階にあたる人類の祖先は、全て旧人段階にあたるのだが、すでに脳容量は現代人とほとんど変りが無いまでになっていた。ネアンデルタール人にいたっては、現代人より平均的に脳容量が大きかった事が知られている。
これらの旧人が全盛を極めていた15万年から20万年前、すでにアフリカでは解剖学的な現代人の祖先が現れていた。現在、最も信じられているアフリカ単一起源説では、旧人は現代人の祖先とは考えられていない。現代人の亜種あるいは別種とされていて、ひとまとめに古代型ホモ・サピエンスと言う名称で呼ばれている。これに対応して現代人と2003年に発見されたばかりの現代人の亜種 ホモ・サピエンス・イダルツは、現代型ホモ・サピエンスと呼ばれる。そして、古代型ホモ・サピエンスは、現代型ホモ・サピエンスの世界進出に伴い、すべて絶滅してしまったとする考えが主流になっている。
「本当に古代型ホモ・サピエンスの血は、現代人にまったく受け継がれていないのか」現在でも議論が続く、人類学上の最大の謎でもある。しかし、分子生物学の進歩によるミトコンドリアDNAの解析などからは、現代人のDNAが、アフリカ起源であり古代型ホモ・サピエンスのDNAが見つからない事だけは確かな事のようである。このことからも、古代型ホモ・サピエンスから現代人が進化した事はありえない。しかし、限定的とはいえ現代人と古代型ホモ・サピエンスが交配した可能性を完全否定する事も出来ないだろう。
それでは、15万年以上前アフリカに誕生し2度目の出アフリカを達成した解剖学的現代人の現代型ホモ・サピエンスは、どのようにして古代型ホモ・サピエンスと入れ替わっていったのだろうか。この問題にこそ、従来の仮説では説明不可能な数々の謎が潜んでいる。