なりきり女優

ミャンマーの夕陽が美しいのをご存知だろうか。川岸にたたずんで真っ赤な夕陽が沈んでいくのをうっとり眺めていた時のことだ。ミャンマー人の女性が近づいてきて「ワタシ日本語チョットOK、カネシロタケシ、イイオトコ」と握手を求めてきた。キラキラした素敵な目をしている。アメリカとは違ってミャンマーには挨拶の時に握手をする習慣はないはずだ。珍しい。もしかして…と思いつつ、「金城武ね、私も好きよ」と女優さながらの笑顔で彼女の手を握り返すと、とても嬉しそうにしていた。やっぱりそうだ。後ろめたさもあったが、ちょっぴりいい気分だった。何か言いたそうな様子に、次はサインでも求められるのかと思ったら、もう一度「カネシロタケシ、イイオトコ」と言っただけで彼女は去っていってしまった。途中、一度だけ振り返って「キムタク、イイオトコ、サヨナラ」と叫んだ。私が日本人というだけで、共通の話題や何か知っていることを話したかったのだろう。話の内容は何であれ、こうした交流が楽しいと感じた。
ミャンマーでは海外の俳優も人気だ。お菓子を買った時につけてくれた袋は、今をときめく「ヨン様」だった。
トカゲって英語でなんて言う?
ホテルで髪を乾かしている時、鏡の隅っこで何かをチラッと見た。確かに背後で何かが動いた。いやな予感がする。同じ部屋に私以外に動くものがいる。しかも大きい気がする。「このままじゃグッスリ眠れない!この部屋はダブルではなくシングルなの!がんばれ私!」と心の中で叫んだ後、細目でゆっくり振り返ると、壁に貼り付いた全長30cmほどのトカゲが目に飛び込んできた。とても大きい!
背中に冷たいものが走った。最悪な状況だ。私にはとても捕まえられないし、そんな勇気もない。とりあえず助けを呼ぼう。相手を刺激しないようにそーっと電話機に近づくと、すぐさまフロントにダイヤルした。「部屋にLizard(トカゲ)がいるの!助けて!」小さな声で叫んだが、通じなかった。「Lizardって何?」と聞いてくる。「細長くて、手足が2本ずつあって、しっぽが切れるとまた生えてくる気持ち悪い動物」と言ってもピンときていない。こんな一大事に連想ゲームをしている場合ではないのだ。とりあえず部屋に来て欲しいと伝えると、少年のようなスタッフがホウキと防虫スプレーを持ってやって来た。そして、トカゲを見るなり「スモールクロコダイル!」と叫んでケタケタ笑った。笑いごとじゃない。ヤツと一緒に寝るのだけはごめんだ。私の冷たい視線に気づいたのかすぐに捕獲作戦が始まったが、運悪いことにそのスモールクロコダイルはエアコンの中に隠れてしまった。いくら叩いても出てこない。スプレー噴射攻撃にもめげず姿を現さなかった。かれこれ20分が過ぎ、スタッフは諦めた顔で「もうノックアウトしているはずだ」と言い張った。世の中にはトカゲをペットにする人もいるくらいなのだから、よく見れば可愛いのかもしれない。そう思うとだんだんどうでもよくなってきた。私は思っていたより強かった。そのままクーラーはつけず、スプレーの臭いが残る中、毛布をかぶって寝た。