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ピーターパンの世界
「ピーターパンの世界(22)」

大地舜
11月13日

 飛行機の中で通路を隔てた隣に座っていたアメリカ人の男は傍若無人だった。着陸のアナウンスがあっても安全ベルトはしない。椅子の背も足元のペダルも元の位置に戻さない。ビジネスクラスだったが、スチュワーデスが注意するかとおもったが、何も言わない。隣には中年の女性が座って本を読んでいたが、見て見ぬふりしている。私も観察するだけで何も言わなかった。
 あとで分かったが隣に座っていた女性は奥さんだった。欧米では基本的にすべてが自己責任だ。だから安全ベルトをしてくださいとアナウンスをして、その要請に応えなければ、あとは本人の責任だ。だから私も捨てておいたが、<まあ、よくやるわ>と感心した。日本人にも似たようなタイプの人はいるが、ここまで規則を無視する人は珍しい・・・いや、意外に多いのだろうか? そういえば、東南アジア方面から帰国したときにはイエローの紙に病気になったかどうかを報告する義務がある。だがそれを無視して通り抜け、係員に追いかけられている太った日本人のおじさんがいた。ヤクザには見えなかったが、傍若無人に振る舞う日本人も結構いるのだ。
 シャーロッツビル空港ではモンロー研究所の迎えの車が来ていたが、今回も前回同様、日本人の参加者は私を含め3名だった。一人は東京から来たHさん(男性)。もう一人はフロリダでレストランを経営していたという滞米33年になるMさん(女性)だ。Mさんは昨年のハリケーンの影響で日本の駐在員が帰国してしまい、お店を閉めて今では悠々自適の生活をしているらしい。
 今回は「ライフライン」というプログラムに参加したのだが、私は、このプログラムの狙いをはっきりと分かっていたわけではない。今年の4月に参加を決めていたので、自動的に来てしまった・・・という面もあった。
 8月の「ガイドライン」のプログラムも、あまり趣旨を理解しないで参加したのだが、結果は良かった。今回はどうだろう? わざわざアメリカまで来て失望のうちに帰るのでは・・・という一抹の不安もある。
 このプログラムについて知っていたのは、世の中には浮かばれない霊があるので、その救済活動をすることだった。私の親戚にも納得できない死に方をした人がいる。自殺だ。そのような霊は、まだ成仏できずに地上をさ迷っているかもしれない。そうならば、その方の霊を助けたい・・とぼんやりと考えていた。つまり、それが今回のプログラムに参加する私の理由だった。
 迷っている霊の救済以外に、何をするのかは、知らなかったのだが、来てみたら、まさにそれだけのプログラムのようだ。
 モンロー研究所でフォーカス27と呼ぶ場所には、死んだ霊のレセプションセンターがあり、そこで霊は休息し、次の人生の計画を練るという。一方、成仏できずに迷っている霊はフォーカス23で徘徊しているという。フォーカス23は亡くなった方が最初に行く場所だが、そこにいつまでも留まっているのが、成仏できなかった霊なのだ。
 成仏できない理由にはいろいろあるようだ。まず、突然の事故などで心の準備ができないうちに死んでしまうことがある。あるいは現世に執着が残っていると成仏できないらしい。そうなると、自殺した人々は覚悟の上の死だろうから、成仏しているのだろうか? まあ、その辺は、この1週間のプログラムで明らかになるのだろう。それにしても映画『ニューヨークのゴースト』のような世界に入り込むわけだ。
 最初の2日間は、これまでの復習だった。参加者によって異なるが、毎日、ヘミシンクを欠かさずに聞いて瞑想をしている人もいれば、雑事に追われて、瞑想の時間を持てない人もいる。そこで、最初の2日間は復習をするのだ。
 フォーカス10は身体が眠り、意識が覚醒している状態だ。フォーカス12に入ると意識が宇宙にまで拡大され、猫や犬とも意識がつながってしまう。私はフォーカス12が好きだ。ここで、多くの人々と意識を通じさせることができる気がするからだ。
 フォーカス15は時間のない世界だが、私にとっては深い暗闇でしかない。フォーカス21に行くと、ここは人間の意識の最後の領域で、霊の意識の世界に入っていく橋の場所だという。ここも私にとっては深い暗闇でしかないが、なにやらエネルギーが動いている感じは受ける。まあ、自己暗示かもしれないが・・・。
 今回の「ライフライン」プログラムで探求するのはフォーカス23,24,25,26,27だ。
 フォーカスの24〜26をモンロー研究所では「信念の領域」と呼んでいる。つまり現世の人々が天国だとか地獄だとか、信じ込んでいる世界がここにあるのだという。そういう信念を持つ人々は、まずこのフォーカスレベルに入るらしい。だが行くべきところはフォーカス27なのだ。
 この2日間、特別なことは何も起こらなかった。ルームメイトは歯医者のエリックだが、彼も同じ状態で、どのフォーカスレベルも真っ暗闇でイメージは何も浮かばないという。
 シンガポールから来ている銀行家のローへットは、ボンベイ出身のインド人だが、2011年8月ごろ、日本列島が沈没するから気をつけろ・・・と警告してくれた。彼の知る多くの霊能者が口をそろえて、2012年前後の地球に大異変が起こると感じているのだそうだ。そういえばマヤの予言も同じ時期を示しているが、この時期に太陽系は天の川のもっともチリが密集している中心部を通り抜けるのだそうだ。
 3日目に入ったが、私にもエリックにもやはり何も起こらない。フォーカス10からフォーカス27まで真っ暗闇だ。時々、人の姿や石の構造物や、病院みたいなものがフォーカス23や25で見えたようだが、一瞬にすぎない。
 だがクリスという女性はいろいろ見ている。フォーカス23には人がいっぱい居るという。フォーカス27ではピックアップトラックに乗る3人の家族連れと出会っている。ブラッドと名乗る男に奥さん、それに10歳ほどの息子だ。
 ブラッドが「どっかに電話かけるところは無いか。ここはどこだろう? おれたち交通事故にあったのかな」と聞く。クリスは首をすくめた。<あなたは死んだのよ・・・>と言いたかったがやめたという。奥さんは青いドレスを着て、ブラッドの時計は黒だった。クリスは近くに見えるオリエント風の建物を指さした。「あー、あすこに電話があるかもしれないな、ありがとう」と言って、3人は建物の中に入っていった。クリスは黙って見送ったという。その建物こそ霊のレセプションセンターなのだろうとクリスは言う。

(つづく)

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