kitombo.com | 海賊の話 | 2005年1月31日 
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海賊の話
「ヴァイキング その2」

裏小路 悠閑
1月31日

 現代のノルウェーから始めることにします。
 一度だけ、それも真冬に、ベルゲンの北のフィヨルドにある無名の港と、オスロの南のポルスグルンの外港である、ヒロヤと言う所に行ったことがあります。
 たまたま滯船中に寒波が襲って来て、停泊地が一夜にして氷結してしまったのですが、船が寒冷地仕様でなかったものですから、乗組員全員で船の機能回復と維持のため大奮闘した記憶があります。
 そんなこんなで、地勢や人々の生活を観察する余裕がありませんでした。

 どの様な事情があったのでしょうか、氷河の後退を追うようにして移動して来て、人々はこの地に住むようになったわけですが、地図を見れば一目瞭然、ノルウェーは無数の島嶼とフィヨルドと山の国です。
 西岸を北上する暖流のお陰で、高緯度に長々と延びている割には温暖だとは言いますが、フィヨルドの崖に囲まれ急流に挟まれて、僅かばかりの耕作可能な土地にあっての人々の生活は、日々生存を賭けた闘いであり続けたでしょう。そして厳しい環境が頑強な者たちを育てて来たことは想像できます。

 1960 年代の末に大陸棚に油田とガス田を発見し採掘を始め、今やサウジ・アラビア、ロシアに次いで世界第三位の生産高を持つおかげで、2003 年度の国民一人当たり名目GDPは米ドル換算 48,754ドルで世界第二位を誇り、高度な福祉国家を作り上げていますが、つい最近までは、日本と並んで南氷洋捕鯨に大船団を送り出さねばならぬ程の国であったのです。
 ヴァイキングとして歴史に姿を現して以来ずっと、この地域は政治的経済的にヨーロッパの辺境であることを余儀なくされておりますが、そのことがノルウェー人のメンタリティに現在も何程かの影響を及ぼしているのではないでしょうか。

 欧州経済地域協定・EEA、欧州自由貿易協定・EFTA、安全保障関係のESDPなどに参加することによって、EUとの関係は円滑に運ばれておりますが、加盟国ではありません。72年と94年の二回、国民投票の結果、当時のECに加盟することを見送っており、2005年の選挙では、いま国論を二分しているEU加盟問題を争点にしないことで、既に政党間の協定が出来ております。
 EU加盟反対派の言い分は『北海油田の石油、天然ガスや漁業資源に恵まれていて経済的に豊かであるから、EUの傘下に入っても利益が無いばかりでなく、石油・天然ガス・漁業資源に対する主権が脅かされかねない。』
 あるいは、『加盟すれば貧乏国の面倒を見なければならず、北海油田の原油収入を基礎に築き上げてきた世界有数の生活水準や高福祉社会も、低水準に均一化されるのではないか』と危惧するものであります。
 実際に、今EUに加盟することを望んでいる国々の経済状態を見れば、ノルウェー人の気持ちは判らぬではありません。
 一方で、石油ガスの資源が枯渇した時のことも念頭を離れぬようで、福祉の抑制をせねばならぬとも考えており、石油による収入は基金を通じて株式や債券に投資しております。資源はあればあったで、また違った悩みがあるように見えます。

 過去の二度の世界大戦では、中立を宣言しておりました。
 一次大戦の時は中立国であるにも拘らず、あからさまに連合国側に肩入れして、「中立的連合国」と呼ばれ乍ら、世界に誇る商船隊を投入して物資や兵員の輸送に協力し、見返りとして、国内で必要な石炭やその他の物資を、イギリスから分けてもらっておりました。
 二次大戦が勃発した時、国土が戦略的に重要な位置にあることから、同盟国として旗幟を明らかにし、英仏の双方からの来援を待とう、と言う意見が根強くあったのですが、結局は中立国であることを宣言しました。
 一次大戦のときのノルウェーの言う中立とはどんなものであったかは、ドイツ人の記憶に深く刻まれていたと思います。ドイツ軍はノルウェーに奇襲攻撃をかけて占領し、政府はイギリスに逃れてロンドンに亡命政府を樹立して戦争に加わり、今回も商船隊は連合国の作戦遂行に貢献しました。
 占領下のノルウェー国民の内には、ナチ党党員も同調者も多数おりましたし、緒戦のドイツ軍の勢いから見て、ドイツの勝利間違いなしと思った者も勿論多数おりました。
 多くの若者たちが志願してドイツ軍に入り、東部戦線に送られました。
 ヒットラーは人口三百万程のこの国に、三十七万人を超える兵員と膨大な資金を投入して、空港や軍港など様々な軍事施設を建設し、連合国のソ連向けの武器弾薬援助物資の海上輸送を、非常に困難なものにしました。また原爆製造に必要な重水のプラントも建設しておりまして、これらの事柄は戦後の戦記物文学の格好の素材となりましたから、私どもの年代の人たちなら知っておられるでしょう。
 戦争末期、廃墟となったドイツ本土を捨てて、破れかぶれになったナチスの残党がノルウェーに逃れ、最後の一戦を試みるのではないかと、連合国と亡命政府は恐怖に震えたのでした。
 結局、ノルウェー人たちは戦勝国として二次大戦の終わりを迎えましたが、占領下でのドイツ軍への同調者や協力者、それに多数の混血児が残りましたから、その処理とともに、それらの問題とどう折り合いをつけるかということで、苦労の多い悲惨な時代を迎えました。

 これまでEUは拡大の一途をたどって来ており、トルコの加盟まで取りざたされるようになったこの頃では、何とかしなければ、ノルウェーはまたヨーロッパの辺境になってしまうのではないか、と心配する人たちもいるのは確かです。

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