ヨーロッパにおける民族の移動は紀元前千年頃から、十一世紀のヴァイキングの侵寇までの約二千年続いたといいますが、旧約聖書には古い事例がたくさん載っていますから、世界規模で見れば恐らく開闢以来ずっと止むことなく続いていて、これからも起こりうることであろうと思っているのですが、どうでしょう。
例えば、現代になってからの、インドと東西パキスタンが分離した時の、双方向への民族の移動は、ただ驚嘆するのみの出来事でありましたし、ソ連邦時代には革命の障害になりそうな民族の強制移民が行われました。
ガガーリンが初めて宇宙飛行をして、ソ連邦の全人民が誇りに胸を膨らませていた時期に、北洋材の積み取りのためにアムール川を遡り、ニコラエウスク市の少し上流のマゴと言う泊地や、間宮海峡のラザレフという港に何度も行きました。
当時もシベリアでの生活は貧しく厳しいことは明らかでありましたが、ガガーリンのもたらしたものは絶大で、人々は希望と誇りに満ちあふれておりました。
海員クラブでは、ミーシャやスベタ(スベトラーナの愛称)が、頬を染めて社会主義のすばらしさを我々に理解させようと、懸命になっておりました。
思い返せば、ちょうどあの頃ソ連の民衆のエネルギーが最高潮に達していたのであろうと思います。
ソ連政府はその民衆の熱気を更に煽り立てて、ただ単に生命を維持するだけでも莫大なコストの掛かる極北の酷寒の地にまで開発の手を伸ばし、極地での労働は英雄的な行為と宣伝し、高賃金高待遇を約束して労働力の大量移動を行いました。 低温の故に作業機械が劣化して壊れる極寒の地に、こうして周辺に独自の商業圏を持たず、互いに連絡のない孤立した都市が幾つも作り上げられましたが、それらの都市にあっては食糧は勿論のこと、すべての消費材を外部に頼らざるを得ないのです。
ソ連邦時代にはコストを無視し、食糧からトイレットペーパーまで空輸を含め何とかすることが出来ましたが、市場経済原理が導入された今日、これらの都市群は経済上のブラックホールとなって富を吸い込んでしまい、ロシア経済の足を引っ張っております。
ロシアは今、ブラックホールを何とかしようと、日本を含め外国の資金の導入を狙っているのです。
政治的・経済的な理由で発生する難民という形での民族の移動もありますが、日本人にとって殊更気になるのは、北朝鮮の金王朝が、何時どの様に終わるかです。 韓国も北朝鮮も、ともに民族統一を声高に言いますが、双方の社会基盤は全く異なったものになっており、北朝鮮に居るのは支配されることしか知らない人民であって国民ではなく、韓国の文化とは相容れぬ文化を持って既に二世代は過ぎておりますから、互いに異民族であるとの認識にたって冷静に考えて欲しい、と思っているのですが?
歴史上、僅かな期間で変貌を遂げて異なった民族になった、としか言えない例が結構あるのです。
解放経済政策を取り出して以来、中共にあっては貧富の格差が拡大し、人民の階層化が進んで固定してしまいましたから、建国の理想に反して食えない者が大量に発生して都市に流入し、社会不安の基になっております。
民族移動や難民がらみで近い将来問題となりそうなのは、今シナ大陸で起こっている大規模で急速な砂漠化、水資源の枯渇と深刻な水質の汚染であります。
水資源の枯渇は、社会の崩壊に直結し、人は生き延びるためには何でもするものでありますから、朝鮮半島問題よりは余程に不気味に感じます。
横道にそれましたが、五世紀頃のブリタニアに戻ります。
西欧世界について見れば、四世紀末から六世紀末までの二百年間に起こった大規模な民族移動は「民族大移動」と呼ばれ、ヨーロッパの形成と言う点から劇的な出来事でありました。
この期間中に、ブリタニアにはアングル族、サクソン族、ジュート族が乗り込んで来ますが、やがて伝来することになるキリスト教の力が大いにあずかって、次第に国家らしい国家が現れます。
民族大移動発動の切っ掛けはローマ帝国の弱体化の外に、遠く内蒙古の遊牧民の消長にその遠因があります。
内蒙古にシナ人が鮮卑と呼んだ遊牧の民がいて次第に力を付け、四世紀後半に至って「北魏」を建国するのですが、この鮮卑族から離脱した者たちが西に向かい、ペルシャ系遊牧民スキタイの諸部族を糾合して、「柔然」と呼ばれる強力な軍事集団を作り上げ、更に西に勢力を伸ばしました。
柔然伸張の先にはトルコ系の騎馬民族で、シナ人が匈奴と呼んだ民族と同族とされ、「フン」の名で広く知られる民族がおりました。
柔然に圧迫されたフン族が更に西方のゴート族の地に侵入して来たため、ゴート族は故地を捨てて南に西に劫略を続けながら移動することになりました。
フン族とゴート族の侵入に西方のゲルマン民族は狂乱し、ガリアやブリタニアに新天地を求めて、さまよい出た次第であります。
こうした玉突き的民族移動の最後に弾き出されたのが、アングル族サクソン族でありブリタニアへ侵入した、といった具合になりましょうか。