特別寄稿
「福の神のご利益(4)」
油棚憲一
7月8日
「先生に喜んで頂けるお話ですので六本木の日本IBM本社にご足労願いたい」
との電話。私は指定の日時に参上した。驚く程の豪勢な部屋に案内された私は、二十名程の重鎮達が待っているのに先ずは恐縮した。その中の上席の空いている椅子に腰を下ろしたら、間もなく座長が発言した。
「横から拝見していると、先生が各方面でご活躍しておられるのが素晴らしい事と存じております。実は我が社日本IBMu h学術研究者を援助するファンド(基金)が有りますので、先生に若干研究費を使って頂きたいとの話。私はやはりラッキーな話だったのだと嬉しくなり、それでは二十万円か三十万円かを私にくれようとしているのかな、と思い、ついつい日頃の軽口が出てしまい、
「これは有難い、棚からボタ餅の話ですね」
と。途端に今まで緊張気味に感じられていた場内は、がらりと変って、一同は
「わっはっは・・・」
と笑いだしてしまった。そしたら座長の高橋さんという方が、「未だ金額も言わないのに喜んで頂きホッとしました。実は一千万円を景教させて頂こうと思っているんです」と。私は驚いた。
「えっ? 一千万円もですか・・・」
と声を出してしまった直後に、私はやっぱり、基本的には田舎者丸出しの発言になってしまったと後悔した。その仕ぐさに一同は勿論ほほ笑んでしまった。
「いや、一千万円と言うのは一年間に一千万円で、毎年一千万円ずつに三年間提供させて頂こうと思っているのです」と。私は余りの大規模の話に驚き、結果的には有難く頂戴する事になって帰路についた。
その金は私個人の研究活動を援助するためのものであるから、研究費と名のつくものなら如何なる形の使い方でも自由であるとの事。私は余りのラッキーに自宅へ戻って思はず「打出の小槌」に手を合わせた。もう夜の九時半を過ぎていた。所がその時に電話がなったので受話器を取ったら、文部省からであると言う。「文部省からって、こんな遅くに・・・」
と私が言ったら、昼間私の家へ電話したのですが、誰もでなかったので・・・との話。何の話ですかと私が聞いたら答はこうだった。
「私は係りの者で、先生からのご返事を明日迄の間にお聞きしなければならない立場なのです。と言いますのは本日委員会がありまして、或る研究に於て、先生がちゅうしんになって遂行して頂きたいと決定したのです。それで先生のご意向を明日までにお聞きして報告しなければならないものですから・・・」との事、「何の研究?」との私の問い合わせに答えは「水中考古学の・・・」との答、私に取っては初めて聞く言葉。思わず、
「水中考古学って難ですか?」と聞いてしまった。最も恥ずかしい質問だったが、本当にその時点では私は初耳だったので止むを得なかった。このあたりが私としては本名でかけない理由の一つである事をご了承下さい。ペンネームならブチマケて打ち明け話が出来るから・・・。そしたら、
「水中考古学とは新しい学問ですが基本的には考古学なのです。然しその作業の場(フィールド)が海底や湖底などの水中なのです。従ってこの研究の為には船の操船の航海術も専門知識を持っている必要があり、更には考古学ですから少なくとも歴史研究者である事が必要であり、更には電子工学分野などでハイテクにも通じている人である事が条件として必要なんです」
との事。私は思わず
「それならその全部が私のやっている事ではないですか。唯一つ私は考古学者ではないけど」
「それで、研究組織の中に陸上考古学者も入って頂いて、先生には研究組織の中心になって頂きたい、と言う話なのです」
私は引き受けるきもちになってしまった。そこで、どの程度の規模の研究にするのかを問い合わせたら、その答に私は又も驚いた。
「この研究は、研究者から研究費を文部省から支給してもらう為に申請する研究では無く、国として必要な研究であるため文部省の方から研究費を提供して、研究をお願いする形の『特別研究』なのですが、とりあえず来年度で一千万円を支給し、継続して暫く研究を続けてもらう事になるのです」
との事。何と、同じ日に又も一千万円が・・・私は唖然とした。それも継続してその次の年度も・・・と。結果的には四ケ年継続となり後の方では年間千三百五十万円にもなり、前述の私的研究費には比較的大きな税金は取られたものの、相方合計では私は第二の人生に入った途端、極めて恵まれた研究活動を開始する事が出来たのであった。
然しそれはラッキー・ミラクルの入口の話であって、本当の「福の神の御利益」はその後になって更に発展するのだった。
ここ迄筆を進めた現時点で、又もシンクロニシティ。二○○二年五月九日付けの、前述の私立大学からの郵便が私の手元に届いた。その内容が何と、「海の百科事典」の出版に当って、その中に「水中考古学」の項目を設けたので、それを私に執筆してくれ、その連絡である。勿論引き受けるつもりだが、目下それに関する笑い話を書いている最中に、この様なまじめな話しが飛び込んで来るなんて・・・。私に「こんなフザケた執筆の方は止めろ!」とのお叱りかも知れない。ああ。
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